今、ヴィンテージエルメスのジュエリーが人気だ。"歴史やディテールを掘る楽しさ"を持つ名作の数々は、ファッションの趣味嗜好を問わず幅広い層から注目を集めている。そんなヴィンテージエルメスの価値にいち早く着目し、市場が急激な高騰を見せる前からその魅力を発信してきたのが『VCM』を主宰する十倍直昭氏だ。
同氏によれば、職人の手仕事が生む精緻なギミックや、製造年代で異なるミリ単位の仕様の違いを知れば知るほど、夢中になっていったのだという。今回は、十倍氏がエルメスのジュエリーに魅せられた経緯、そして各モデルの年代別ディテールを通じて、今ヴィンテージエルメスを手に入れる意味に迫っていく。
プロフィール
VCM Owner
十倍 直昭|Naoaki Tobe
Instagram:@naoaki_tobe、@vcm_vintagecollectionmall
日本有数のヴィンテージプラットフォーム『VCM(Vintage Collection Mall)』を主宰。古着バイヤーとしての10数年のキャリアと審美眼を活かし、国内外から集めたヴィンテージエルメス・ジュエリーを豊富に展開する第一人者として、シーンを牽引している。
十倍氏がヴィンテージエルメスに惹かれる理由。「エルメスのジュエリーは"リーバイスのヴィンテージデニム"と似ている」
─ まず、エルメスのジュエリーと出会ったきっかけから教えていただけますか?
90年代にものすごく人気を集めた二重巻きのレザーブレスを買ったのが最初ですね。たしか19歳のときだったと思います。当時、藤原ヒロシさんが着用されていたこともあり、憧れて手にした方も多かったんじゃないでしょうか。当時は2、3万円ほどで手に入るアイテムでした。
─ 当時はシルバージュエリーではなく、レザーのアクセサリーから入られたんですね。
そうなんです。そのほかのブランドとしては、「ゴローズ」や「クロムハーツ」もすごく人気がありました。もちろん、今でも熱狂的に支持されているブランドですし、僕も大好きです。ただ、当時は古着に合わせるジュエリーとして、もう少し違う雰囲気を取り入れてみたい気持ちがあって。アメカジとは少し違うラグジュアリーな要素を足したいと思ったときに、「エルメス」がすごくしっくりきたんです。
─ レザーブレスの次はどんなアイテムを試されたんですか?
リングを買ったことがありましたが、ブレスレットに関しては、当時はシェーヌダンクルくらいしか知りませんでした。リングのほかには、20代の頃に一度だけ"トゥアレグ"を買ったこともあります。ちょうどインディアンジュエリーが流行った時期で、その流れの中で少しずつエルメスのジュエリーを取り入れていった記憶がありますね。僕は古着をベースにしたスタイルが好きなので、カジュアルな服装にカジュアルなアクセサリーを合わせるよりは、あえてラグジュアリーなジュエリーを取り入れた方が全体のバランスが引き締まると思っているんです。古着とラグジュアリー、そのコントラストがすごく好きなんですよね。その感覚に一番しっくりきたのがエルメスでした。
─ エルメスのジュエリーも、あくまで古着に合わせるものという発想が十倍さんのベースにあったんですね。
はい。自分の中では、"古着に合わせるジュエリーの究極"を追求したいという気持ちがずっとありました。ラグジュアリーブランドとしては、「ティファニー」や「カルティエ」も身につけていましたが、エルメスにはほかのブランドにはない圧倒的に豊富なデザインのバリエーションがあるんです。その奥深さを知ってからは、次はどんなモデルがあるんだろう、どんな背景があるんだろうと興味がどんどん広がっていきました。気づけば、エルメスの世界にのめり込んでいました。
─ そもそも、展開されていたデザインが多いことがエルメスの魅力のひとつにあると。今の世界的な高騰は当時から予想していましたか?
5、6年前は、まだここまで市場が盛り上がるとは想像していませんでした。当時の自分に今の状況を話しても、きっと信じられなかったと思います。振り返ってみると、多くの人がシンプルな服装を好むようになった時代の流れと、エルメスならではのミニマルでユニセックスなデザインがうまく重なったのではないでしょうか。また、大人の男性にとっては、ロレックスのようなステータス性を感じられる存在でもありますよね。
─ たしかに、服自体で着飾るというよりも、いいアクセサリーをさらっと身につけるムードのほうが今っぽいのかもしれません。
また、僕がエルメスを好きな理由のもうひとつに、ヴィンテージのメキシカンジュエリーなどにも通じるデザインのルーツを感じられる点があります。実際に、エルメスが生み出したデザインや意匠が、その後さまざまなブランドに影響を与えたケースも少なくありません。だから僕にとってエルメスのジュエリーは、デニムにおける「リーバイス」のような存在なんです。ひとつの基準であり、多くのブランドに影響を与えてきたオリジンのような存在だと思っています。
─ なるほど。ジュエリーにおけるパイオニア的な存在なんですね。
その魅力は年代によって全く異なります。同じシェーヌダンクルでも、初期の四角いコマから丸みを帯びたコマへと仕様が変化していく。その変遷を追う面白さは、ヴィンテージ好きにとって、リーバイス501の年代ごとのディテールや、ヴィンテージロレックスの文字盤やケースなど、年代ごとの仕様の変化を追いかける楽しさと通じるものがあるんです。
1950〜1960年代:現行品とは銀の含有量が異なる"シルバー800"。時代の重みを感じるシルバーの深みと造形美
ここからは、十倍氏が薦めるヴィンテージエルメスのジュエリーを年代別にチェックしていく。まずは、1960年代以前の"初期コマ"と呼ばれる、古い時代ならではの素材感が際立つシェーヌダンクルをはじめとするマスターピースを3品ピックアップしていただいた。
初期コマ 60's シェーヌダンクルGM13(MM/GM)
現行の第4世代は細長いアーモンド型のコマですが、1960年代の初期モデルとされる第1世代のシェーヌダンクルは、小判型で角張ったフォルムをしています。写真や実物を見比べると、その違いはひと目で分かります。もうひとつ大きな違いが素材です。現行は"シルバー925"ですが、初期のモデルには"シルバー800"が使われています。シルバー925の明るくシャープな輝きとは異なり、シルバー800は割り金の割合が高い分、独特の金属感があるんです。さらに経年によって硫化が進むことで、深みのある"いぶし"の表情が生まれる。その渋いくすみ方こそ、ヴィンテージならではの魅力だと思っています。
初期コマ 60's シェーヌダンクルIDブレス(MM)
初期コマのなかでも特に希少なのが、このIDプレート付きのモデルです。もともとはミリタリー由来のIDプレートを備えた仕様ですが、60年代の初期コマで、この仕様の個体は、市場でもほとんど見る機会がありません。初期コマはGMサイズが中心で、MMサイズは滅多に出てこないんです。過去には一度だけPMサイズのID付き個体を取り扱ったことがありますが、それ以来の入荷になります。サイズ感としてもメンズが着けやすく、一般的なシェーヌダンクルとはひと味違う一本を探している方には、非常に魅力的なモデルだと思います。個体差によってIDプレートがやや小ぶりなのも、この個体ならではの愛らしいポイントですね。
トルサードMM(PARIS刻印 / シルバー800)
1950年代に製作された名作「トルサード」も、こちらの個体はシルバー800が採用されています。トルサードは2000年代以降になってからも一度復刻されたりするなど、エルメスを代表するモデルのひとつです。後期型は中央で留める仕様ですが、こちらは横から留める前期型。前期型は全長にゆとりのある個体が多く、この個体もメンズが着用しやすい19cmをクリアしています。シルバー925のような明るい輝きとは異なり、シルバー800ならではの落ち着いた質感と、経年によって生まれる深みのある"いぶし"の表情が魅力です。オールドエルメスらしい味わいを存分に感じられる個体だと思います。
1970〜1980年代:70sにはレトロなムードの"筆記体ロゴ"が登場。イエローゴールドの特注品も出品予定
1970年代に入ると、この年代特有である筆記体ロゴの刻印が刻まれる個体が登場。70年代というだけでも十分に希少だが、VCMではさらに個体数が少ないオーダー品も取り揃えているようだ。
70-80's 筆記体 シェーヌダンクル GM29 ネックレス
シェーヌダンクルGMのネックレスです。今は31コマも現行で販売されていますが、ブレスに比べると生産数が少なくて本当に手に入らない。これは未使用コンディションです。当然、筆記体ロゴの刻印もしっかり残っています。無地のTシャツにさらっと合わせるだけで十分な存在感がある一品です。女性や首が細い方には、少し短めの29コマもバランスが良いですね。
60-70's シェーヌダンクルGM12/YG(第2世代イエローゴールド)
今回を象徴する一本が、第2世代のイエローゴールドGM12です。日本国内でも数本レベルしか現存しないと言われるほど希少で、価格も1,000万円を超えるモデルになります。現行のイエローゴールドと比べると、長い年月を経たことで派手さが抑えられ、少しマットな色味になっているのが特徴です。さらに細かく見ると、現行モデルよりもトグルや丸カンがひと回り大きく、コマもやや角張ったフォルムをしています。デザインとしては初期コマと現行モデルのちょうど中間に位置するような存在で、シェーヌダンクルの変遷を感じられる一本だと思います。
1990〜2000年代:モダンなデザインセンスと職人技が融合。十倍氏を虜にした"アクロバット"にも注目
1990年代以降になると、エルメスの卓越したクラフトマンシップと、モダンなデザイナーズ精神が融合した名作が登場し始める。マルジェラ期やピエール・アルディ期と呼ばれる時期に発売されたジュエリーを狙うファンも数多い。
マルジェラ期 シェーヌダンクル GM13/YG MIX(コンビブレス)
Tバーと丸カンのみがゴールドになった、シェーヌダンクルのコンビブレスです。当時のオーダーによって製作された個体だと思われます。すべてがゴールドだと少し存在感が強すぎると感じる方でも、これならワンポイントとして自然に取り入れられる。シルバーの時計やリングとの相性もよく、僕自身も普段からよく身につけているモデルです。
アレアGMブレス
こちらは、「アレア」というモデルです。アレアは"ランダム"を意味し、その名の通り、1コマごとに異なるデザインが組み合わされています。ピエール・アルディらしい遊び心が感じられる一本ですね。エルメスジュエリーを象徴するさまざまなモチーフが取り入れられていて、まるで名作を凝縮したようなデザインになっています。手首まわりにほどよいボリューム感があり、一本で十分な存在感を楽しめるのも魅力です。特にこのGMサイズは人気が高く、市場でもなかなか見かける機会の少ないモデルです。
クレッシェンド フランス製ブレス
"だんだん強く"という音楽用語に由来するモデル名のとおり、コマが徐々に大きくなっていくデザインが特徴の名作です。後期型はドイツ製になりますが、こちらは初期のフランス製。フランス製はコマがキュッと詰まったバランスになっているのが特徴で、この詰まり具合が良いほど、より洗練された印象になります。その完成度の高いデザインは、後年さまざまなブランドにも影響を与えたと言われており、エルメスを代表するモデルのひとつだと思います。
アクロバット ブレス MM/GM
僕がヴィンテージエルメスに傾倒していく大きなきっかけになったのが、この「アクロバット」です。僕のように体格が大きい人間にも自然に馴染む、程よいボリューム感も魅力なのですが、何より衝撃を受けたのが、"コマが外れる"という構造でした。これは職人が一つひとつ手作業で仕上げているのですが、接合部分がコンマ数ミリずれるだけでも、きれいに噛み合わなくなってしまう。力を加えると外れる一方で、着用時には簡単に外れない。その絶妙な精度に、エルメスの職人技術が凝縮されているように感じました。アクロバットは2006年秋冬に登場し、ワンシーズンのみ生産されたとされる非常に希少なモデルです。その後、一定期間は限られた顧客向けにオーダーで製作されていたようですが、現在は廃盤となっています。希少性はもちろん、その独創的な構造とデザイン性から、今ではエルメスジュエリーを代表するモデルのひとつとして高く評価されています。
スニダンでの抽選販売に向けて
VCM COLLECTION STOREでは、これまで実際に店舗へ足を運んでくださるお客様との出会いを大切にしてきました。一方で、『遠方なので来店できない』『いつか見てみたい』という声も多くいただいていました。今回、SNKRDUNK様との取り組みによって、これまで店舗でしかご紹介できなかった希少なヴィンテージエルメスを、より多くの方にお届けできることを大変嬉しく思っています。ヴィンテージは一点ごとに背景やストーリーが異なり、時代を超えて受け継がれてきた価値があります。この企画を通じて、お客様それぞれが自分だけの"特別な一点"と出会い、長く愛用していただければ幸いです。