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〜ただの15周年ではない。Ronnie Fieg × ASICS GEL-LYT
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猫愚息 琥田楼

〜ただの15周年ではない。Ronnie Fieg × ASICS GEL-LYTE III “Salmon Toe”の物語〜
その前に、「Empire State of Mind」を流しながら。
New Yorkの空気を感じながら読むと、この物語はきっと少し違って見える。

なぜ今、レトロなASICSの一足がここまで大きな盛り上がりを見せているのか。

もちろん15周年だから。
もちろんRonnie Fiegだから。
そして、Kithだから。

ただ、それだけで今回のGEL-LYTE III “Salmon Toe”の復刻を語ってしまうのは少し違う。
オリジナルが発売された当時を知る人たちにとって、Salmon Toeは単なるRonnie Fiegの人気カラーではない。
それは、彼のDavid Z.時代から、のちのKithへとつながっていく転換点そのものを象徴する一足だった。
そしてその物語は、実際に発売される何年も前から始まっている。

Ronnieがこのデザインを考えていたのは、まだDavid Z.に在籍していた2008〜2009年頃。
本人の話によれば、そこに何か大げさなコンセプトがあったわけではない。
鮭そのものや、フィッシングカルチャーから着想したような深いストーリーがあったわけでもない。

もっとシンプルだった。

自分が好きなカラーパレットだった。
そして、それまで自分がやったことのないカラーブロッキングを試してみたかった。

それだけだった。

ただ当時は、メンズスニーカーにこれだけ大胆にピンクを使うこと自体がリスクだと見られていた。
最大の特徴は一目瞭然だった。
前足部を大胆なサーモンピンクで丸ごと切り替える。
だから自然と、その一足は“Salmon Toe”と呼ばれるようになった。

Complexも後に、このデザインについてRonnieのそれ以前のASICSとは明確に異なるものだったと評している。
それまでの彼のASICSは比較的トーナルな配色が多かった。

対してSalmon Toeは、前足部を強いコントラストで完全に切り分けるという、より大胆なアプローチを取っていた。
そしてさらに面白いのが、このデザインがすぐには発売されなかったことだ。

Salmon Toeは、実際のリリースまでおよそ2年間眠ることになる。

その後RonnieがDavid Z.を離れる際、すでにいくつかのプロジェクトが進行していた。
そこで、どのデザインをDavid Z.側に残し、どのデザインをRonnieが持っていくのかという話し合いが行われた。
その結果は、ざっくり言えばこうだった。

**Mint Leaf → David Z.に残る**
**Salmon Toe → Ronnieが持っていく**
**Leather Back → Ronnieが持っていく**

この部分はかなり重要だ。
当時の構想資料には陰陽をはじめ、チャクラやMind・Body・Spiritといった“バランス”を連想させるモチーフが確認できる。興味深いのは、同時期に構想されたLeather Backと並べた時だ。まるで陰と陽のように、共通する構造を持ちながら互いに異なる重心を持つ二足に見えてくることだ。

RonnieはSalmon Toeを、自分の次のキャリアへと持っていく。

そして2011年9月30日。

Kith Brooklynのオープンと同時に、Salmon Toeは正式にリリースされた。
当時の販売数は、店頭でわずか72足のうち、最初の40足がスペシャルBOX、残り32足が通常仕様。オンラインで300足。合計372足という極めて限られたリリースだった。

結果としてこの一足は、Kithというブランドにとって最初のコラボレーションフットウェアとなった。
それだけでも、このスニーカーに歴史的な意味を持たせるには十分だった。
しかし、実は正式発売よりも前からすでに熱は生まれていた。

Ronnieは以前、1 of 1のSalmon Toeサンプルをプレゼントしていた。
その反応はすぐに返ってきた。

「これを発売してほしい」
そんな声が次々と上がった。

2011年のSneaker Freakerのインタビューでも、Ronnie本人が、そのサンプルをプレゼントして以来ずっと製品化を求める声が続いていたと語っている。
この背景を知ると、現在のSalmon Toeの見え方は大きく変わってくる。
Salmon Toeは、最初から未来の“Kithの象徴”になることを計算して作られたカラーではない。
Ronnie Fiegのキャリアを代表する一足になる保証もなかった。

むしろ当時はその逆だった。

「メンズのスニーカーに、そこまでピンクを使って本当に売れるのか?」
周囲からそう疑問を持たれていた。
それでもRonnieはこのデザインを信じた。
そして時間が経つにつれ、当初は“リスキー”と見られていたそのデザインが、Ronnie FiegとKithを象徴する最も有名なカラーのひとつへと変わっていった。

さらに、この一足にはもうひとつ面白い話がある。

オリジナルのデザイン過程で、Ronnieは白とネイビー、両方のミッドソールを試していた。
そして本人の好みは、ネイビーだったという。
ではなぜ2011年版は白いミッドソールになったのか。

理由は、このモデルが当初サマーシーズンに発売される予定だったからだ。
ただ、ネイビーカラーのミッドソールというアイデアが消えたわけではなかった。
数年後、その考え方は別の形で再び姿を現す。
Kithの5周年を記念して登場したMade in Japanの“Salmon Toe 2.0”だ。
こうした歴史があるからこそ、今回の15th Anniversary Remasteredには特別な意味がある。

背景を知らない人からすれば、今のレトロランナーブームの中で、昔のASICSカラーがまた復刻しただけに見えるかもしれない。
しかしSalmon Toeが何を意味しているのかを知っている人にとっては、まったく違う。

これはRonnie Fiegのキャリアにおける、ひとつの時代の終わりと、次の時代の始まりを映した一足だ。
David Z.時代とKith誕生を直接つなぐ一足でもある。

まだKithが現在のような歴史も影響力も持っていなかった頃、その最初期のフットウェアを象徴する存在になった。

そして何より面白いのは、Kithを代表するアイコンのひとつが、マーケティング戦略から生まれたわけではないということだ。
始まりは、Ronnieが好きだったカラーパレット。
それまで試したことのないカラーブロッキング。

そして、
「男がこんなにピンクの入った靴を本当に買うのか?」
そう周囲に疑問を持たれた一本のサーモンピンクのトゥだった。

15年後。
もう誰も、
「Salmon Toeは本当に成立するのか?」
とは聞いていない。
今みんなが聞いているのは、
**「どうすればこの一足が手に入れられる?」**
その一点だけだ。

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