スニダン編集部の会議で編集長が口にした、「懐かしいな……。ヴィンテージデニム人気の再燃に、エアマックス95のリリース。なんだか、あのころの空気感に似てるんだよ」という一言。その言葉を受け、前回はエアマックス95を起点とした90’sリバイバルに迫った。そうとなれば、ヴィンテージデニムブームに見る"あのころ"と今の相関図も気になるところ。今回も1990年代をリアルタイムで経験していない世代の視点から、当時の熱狂と現代のトレンドが共鳴する理由を探った。
雑誌『Boon』という"モノリス"が授けてくれたこだわり
——前回はエアマックス95が30周年を期に次々とリリースされ、1990年代のリバイバルを感じるという話をしました。もう一つの大きな波として「ヴィンテージデニム」のブームも再燃していますよね。
編集長: 「リーバイス® ヴィンテージ クロージング(LVC)」がスニダンでも活発に取引されていて、関連記事もよく読まれていますね。それから、古着好きのお笑い芸人や芸能人がYouTubeの企画で古着屋を訪れ、デッドストックや高額なヴィンテージデニムを紹介している。この盛り上がりを見ていると、本当に僕たちが若かった"あのころ"の空気感にそっくりだなと思うんです。
例に漏れず、当時の僕たちのファッションバイブルは雑誌『Boon』。誌面ではハイテクスニーカーと同じくらいデニムの特集が組まれていて、ヴィンテージのリーバイス® 501XXが絶対的な注目モデルとして君臨していました。『Boon』の別冊ムックには目が飛び出るような価格のジーンズが並び、地方の学生だった僕らは「古いジーパンがなんでこんなに高いんだ?」と驚きながらも、「古いものこそがかっこいい」という価値観を刷り込まれていったんです。
——エアマックス95同様、ファッション雑誌がトレンドを作り上げていたと。
編集長: 当時はよくリーバイス®、リー、ラングラーのアメリカ三大ブランドとレプリカブランドが紹介されていましたが、その中でもリーバイス®の501は別格。1966年ごろまでに生産されたものに付く、最高品質のデニムという意味の"XX(ダブルエックス)"という響きには、魔力のようなものがありました。 カウボーイや鉱夫の作業着から始まった歴史、隠しリベットの有無、革パッチから紙パッチへの変遷……。次から次へと専門用語が頭に入ってくるけれど、現物は高すぎて手に入らない。でも、面白いのは「現物がないからこそ、知識で熱狂できた」という点です。実物を見たこともないのに、雑誌を読み込んで「リベットがどう」「赤耳がどう」とうんちくを語り合えた。知識を蓄えること自体が僕たちにとっての武装であり、最高に楽しい遊びだったんです。
映画『2001年宇宙の旅』の冒頭で、猿に知恵を授ける「モノリス」という謎の物体が登場しますが、僕らにとっての『Boon』はまさにモノリスでした。教科書の勉強は忘れても、赤耳やリベットの知識は今も忘れていない。あの雑誌が僕らに授けてくれたのは、単なるファッション情報ではなく、物事に対して「こだわるための知識」そのものだったんです。
——憧れの501XXは買えないというある種の飢餓感はどうしていたんですか?
編集長: そこで出会ったのが、「エドウィン」の"505"というヴィンテージ加工モデルでした。おしゃれを買う場所が"ロードサイドのドーム型ジーンズ量販店"くらいしかなかった僕らにとって、エドウィンは救世主だったんですよ。
まだヴィンテージ風のユーズド加工が一般的ではなかった時代、縦落ちや赤耳を再現した"ニューヴィンテージ"と呼ばれるこのモデルを、僕は祖父に買ってもらいました。たしか1万円近くして「初めからボロボロのジーパンがこんなに高いのか」と驚かれましたが、裾をロールアップすれば、そこには憧れの赤耳がある。気分はもう『Boon』でいうところのカッコマンですよ。 本物のヴィンテージを買えない飢餓感を埋めるために、別のブランドのモデルで背伸びをする。それは、憧れに少しでも近付きたいという僕たちの精一杯の強がりでもあったんです。
——国産ブランドのユーズド加工モデルでヴィンテージデニムの雰囲気を味わっていたとは、なんとも微笑ましいエピソードですね。その後は憧れのリーバイス®を買ったり?
編集長: 僕は2000年代初頭に上京したんですが、そのころにはデニムブームも一旦落ち着きを見せていました。すると、当時原宿にあった古着屋で、使い古された近年モノの501が500円や1000円といった破格で売られるようになったんです。
一番の衝撃は、代々木公園のフリーマーケット。初めて行ったときは「お宝がこんなに一度に揃うのか!」と、人生で一番の脳汁が出た気がします。お金がなかった当時の僕は、ボロボロになった501を500円で買って手縫いでリペアしたり、リーバイス®のコーデュロイパンツを数百円で買ったりしていました。 憧れは常にヴィンテージの501XXにあるけれど、高すぎて買えないから、手の届く範囲のリーバイス®でその渇きを癒やしていた。そんな同世代は多かったんじゃないかな。
あの日の憧れをその手に。LVCという名の「大人の証」
——そんな時代を経て、今はリーバイス®がオフィシャルでLVCという完璧な復刻を出している。いい時代ですね。
編集長: 当時を知る僕らからすれば夢のような話ですよ。あのころ『Boon』に載っていて喉から手が出るほど欲しかった大戦モデルなどが忠実に復刻され、新品の状態で手に入るんですから。
「大戦モデルが欲しい」というのは、ある種の自己満足かもしれない。でも、それでいいんです。当時、エドウィン505を履いていた自分に、「お前が欲しかった大戦モデルを、復刻だけど今の俺は買えるようになったんだぞ」と見せてあげたい。それは一種の自己実現であり、大人になった証のようなもの。
ヴィンテージは前所有者の歴史を継承するという魅力がありますが、LVCなら今から自分だけの歴史を刻むことができるわけで。僕もここから30年かけて、1本のジーンズを育ててみたいなと思ったりします。それは、効率ばかりが求められる現代において、最高に贅沢で粋な時間の使い方ではないでしょうか。かつて『Boon』が授けてくれたこだわりという火種をLVCというアイテム、そしてスニダンのようなマーケットプレイスが再び焚きつけてくれる。あのころ手が届かなかったロマンを、読者の皆さんも今こそ自分の手で育ててみるのも良いんじゃないでしょうか。
501XXにまつわる思い出は?
雑誌『Boon』を熟読した世代にとって、501XXは単なるボトムスの枠を超越する神格化された存在だ。かつて雑誌のページをボロボロになるまでめくり、実物は手元に無くともうんちくに心躍らせた少年たちが今や大人になり、当時は幻だった一本に手が届く自由を獲得した。
エドウィン505などエイジド加工デニムに込めた精一杯の強がり、初めてボタンフライを留めたときの高揚感、今もクローゼットに眠る「捨てられない一本」の記憶……。501という数字に刻まれた物語は、皆さんの中にも深く根付いているはず。
ぜひ本記事のコメント欄やSNSで、あなたの501XXやデニムにまつわる熱いエピソードを教えてほしい。次回も編集長の記憶と共に、90’s青春世代が憧れた名品をプレイバックしていくので乞うご期待!