Air Jordan1誕生の立役者、 伝説のデザイナー『ピーター・ムーア』|コラムについて
「Peter Moore(ピーター・ムーア)」というデザイナーの名前を聞いたことがあるだろうか?
すぐにピンと来る人はかなりスニーカーが好きな人。誰だかわからなかった人でも、彼の手掛けたデザインは必ずや知っているはずだ。
そう、彼は揺るぎないファッションアイコンとして君臨する"Air Jordan1(エアジョーダン1)"に関わったデザイナー。
今回、彼が成し遂げてきた偉業を改めて振り返っていこう。
スニーカー界を変えた偉人『ピーター・ムーア』
via:nytimes
(写真:スニーカー界を変えた偉人「ピーター・ムーア」の若かりし頃)彼なくしては、今のスニーカー界は考えられない。
そうとまで言わしめるデザイナー「ピーター・ムーア」。
彼は1970年代から1990年代後半までNike(ナイキ)とadidas(アディダス)でクリエイティブディレクターを務めた稀有なデザイナーである。
彼が生み出したものは数多く、
【ナイキ】
エアジョーダン1のシルエット
via:complex
ダンクのシルエット
via:nike
ウイングロゴ
via:complex
"エアジョーダン1"をたらしめる翼とバスケットボールを組み合わせたこのロゴ。これはアメリカ空軍のパイロットウイングや、フライトバッジからインスピレーションを受けたとされており、「ピーター・ムーア」が飛行機での移動中に思いつき描かれた。その際、手元にスケッチブックなどがなかったため、ナプキンにスケッチしたとされている。
【アディダス】
現在パフォーマンスロゴとして使用されている"マウンテンロゴ"
via:complex
1990年に誕生したこのロゴは別名"パフォーマンスロゴ"として、アスリートのパフォーマンスを引き出す商品に取り付けられていたもの。
そのデザインは、同社の象徴であるスリーストライプスを、右へと伸びていく山のように見立てたものになっており、"未来へ向けての挑戦"、"目標の達成"が表現されている。
こう聞けば、すぐに頭に思い描くことのできるデザインばかり。
さて、気になる「ピーター・ムーア」の経歴を追っていこう。
彼は現カリフォルニア芸術大学で美術を学び、その後グラフィックデザインを学んでいる。 そして、1977年に自身のデザイン事務所のクライアントとしてナイキと関わった後に、1983年に同社に入社。
その時点でナイキ初のブランド・クリエイティブ・ディレクターだったということにも驚きだが、彼はその後"エアジョーダン1"や"Dunk(ダンク)"という名作を生み出し、ブランドを象徴するロゴの数々を手掛けるなど、偉業を成し遂げている。
そんな重要な功績を残すも、彼は1987年に自身でブランドのコンサルティング会社を設立するために退社。
それを見逃さなかったのがアディダスだ。
via:complex
(写真:アディダス社でのピーター・ムーア)「ピーター・ムーア」は同ブランドからオファーを受けアディダスに入社。1991年には踵の衝撃やシルエット、足首の動きまで計算されたランナーたちのニーズに応えたランニングシューズ"EQT"シリーズのローンチに携わる。
その後、アディダスを象徴するあのマウンテンロゴをデザイン。そして1992年にナイキの元役員であった「Rob Strasser(ロブ・ストラッサー)」とポートランドにAdidas America(アディダス・アメリカ)の前身となる会社を設立した。
さらには1993年に同社の最高経営責任者であった「ロブ・ストラッサー」が急逝した後、短期間ながら最高経営責任者を「ピーター・ムーア」が務めたというのだから、彼がどれほど有能であったかが想像できる。
via:brendandunne
(写真左から:ロブ・ストラッサー、ディケンベ・ムトンボ、ピーター・ムーア)前述のとおり「ロブ・ストラッサー」は元々はナイキに務めていた人物。
"エアジョーダン1"にも関わっていた過去を持ち、ナイキ創業者の「Phil Knight(フィル・ナイト)」とも関係が深く、フィル・ナイトは2015年に"USA Today"で「ムーアとストラッサーは、パートナーシップの『MVP』だ」と語っている。
via:complex
(写真:ナイキ創業者フィル・ナイト) 「ピーター・ムーア」は1998年にアディダスを退社するが、その後も数年間はブランドのコンサルタントを続けていた。そんな彼だが、2022年4月29日に逝去。この残念な訃報を受けてナイキ、アディダスともに声明を発表している。
【ナイキ】
Jordan Brand(ジョーダンブランド)のヴァイスプレジデント Howard H. White(ハワード・H・ホワイト)
【アディダス】
また1984年、「ロブ・ストラッサー」と共に、当時無名の「マイケル・ジョーダン」を見つけ、人気がなく経営難であったナイキの運命を変えた立役者の一人である「Sonny Vaccaro(ソニー・ヴァッカロ)」は、「ピーター・ムーア」のことをこう語っている。
(写真左から:マイケル・ジョーダン、ソニー・ヴァッカロ)
同業界においては、彼は「ワークエシック(労働倫理)であり、真っ直ぐで、謙虚である」と知られており、自身が前に出るタイプのデザイナーではなかったという。ここからも、いかに「ピーター・ムーア」は業界関係者にも愛され、偉大なるデザイナーだったことがわかる。
彼が手掛けた伝説のプロダクト、"エアジョーダン1"と"ダンク"
via:sneakernews
(写真:1985年当時のカタログ。(左)エアジョーダン1、(右)ダンク)「ピーター・ムーア」が手掛けたナイキを代表するスニーカーである"エアジョーダン1"と"ダンク"。どこか似た雰囲気を持つこの2足、同一人物がデザインしたシューズと聞くと納得がいくはずだ。
"エアジョーダン1"が「マイケル・ジョーダン」のためのシグネイチャーモデルだったのに対し、"ダンク"は全米でNBAに勝るとも劣らない人気を誇るNCAA(全米大学体育協会)に所属する強豪バスケットボールチームへ支給し、さらなるブランドシェアの拡大を狙ったプロダクト。
両者の誕生はともに1985年。
まさに双子とも呼べるモデルというわけだ。
さて、ここからは彼が手掛けた"エアジョーダン1"が誕生するまでの歴史を追いながら、"ダンク"との共通点も探っていこう。
via:wearebasket
(写真:1970年代のアディダスの"HEAD-AND-SHOULDERS ABOVE THE REST!"の広告)"エアジョーダン1"が誕生した当時、全盛期を誇っていたのはアディダスだ。
スター選手の「カリーム・アブドゥル=ジャバー」が履いていた"スーパースター"をはじめ、70年代〜80年代にかけてNBAプレーヤーのおよそ70~80%の選手がアディダスのバスケットボールシューズを自ら購入して使っていたほど。
そんなアディダスに続けとばかりに各社がしのぎを削っていた時代。
スター選手が履くバスケットボールは、必ずや人気の象徴となるという図式が成立していたため、ナイキも次なるスター選手に自社ブランドのシューズを履いてもらうべく、その候補を探していた。
via:nba
そんな中、白羽の矢が立ったのが後の世界的スター「マイケル・ジョーダン」だ。
当時のジョーダンはまだ新人でNBAのデビュー前。さらに他の選手と同じようにアディダスを好んでいた。
事実、ジョーダン自身は最後までアディダスと契約を望んでいたが、当時のスーパースターを多く抱えるアディダスが、ジョーダンを満足させる条件を出さなかったという有名なエピソードが残っている。
そうして「マイケル・ジョーダン」との契約にこぎつけたナイキは、彼のためのシューズを製作する。そこで出来上がったのが、"エアジョーダン1"だ。
via:sothebys
このカラーリングは、当時マイケル・ジョーダンが在籍していたシカゴ・ブルズのチームカラーを落とし込んだ代物。
しかし、NBAの規約で、ユニフォームの統一性に欠けるため白いバスケットシューズ、また白の面積が80%以上のシューズ以外の靴を履くことは禁止されていた。
そのためNBAはジョーダンおよびナイキに対し、着用する度に毎試合5,000ドルもの罰金を課すことに。そして、ナイキがこれをすべて肩代わりして支払っていた。
なぜなら、ナイキはこの事件を逆手に取って、事件を取り上げたテレビCMを頻繁に放映し、プロモーションに繋げたからだ。
via:ModernNotoriety
(写真:ナイキの象徴的なジャンプマロゴの基となった写真と映るピーター・ムーア)CMで流された伝説のナレーションがこちら
「9月15日、ナイキが革命的なバスケットボールシューズを発表。10月18日、NBAが試合でそのシューズを履く事を禁止。幸運なことに、あなたがこのシューズを履くことをNBAが止めることはできない」
このCMは大きな反響を呼び、センセーショナルを巻き起こしたのだ。
ここまではいわゆるプロモーション戦略の部分。
ここで一つ、面白い話がある。「マイケル・ジョーダン」は1984年10月26日、NBAデビューの日は前述のモデルではなく、白と赤のカラーのみで構成されたスニーカーを履いていたということをご存知だろうか。
当時の映像がこちら
@NBA Debuts: Michael Jordan; 16 points, (5 of 16 FG/FGA), 7 Ast,, 6 Reb. Final: @ChicagoBulls 109, Washington Bullets 93 (10/26/84) pic.twitter.com/iBJMhgS3hy
— NBA History (@NBAHistory) October 24, 2016
これが"エアジョーダン1" の前身である幻の"Air Ship(エアシップ)"だ。
One small step for MJ. One giant leap for the game. pic.twitter.com/J3fwuCHZ8n
— Jordan (@Jumpman23) October 26, 2014
この事実は長年語られていなかったが、2014年ジョーダンブランドは本件を示唆する「マイケル・ジョーダン」が白と赤の"エアシップ"を身に着けている写真をツイートし、こんなメッセージが添えられている。
「MJにとっては小さな一歩。ゲームにとっては大きな飛躍。」
この出来事は「マイケル・ジョーダン」のNBAデビューまでに"エアジョーダン1" の準備が整っていなかったためではないか、と噂されている。
実際には、"エアジョーダン1"が正式にコートに登場したのは、1984年11月17日の"Philadelphia 76ers(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)" との試合だった。
そして、その翌年の1985年、有名な逸話をもった赤と黒のカラーリングをまとった"エアジョーダン1"が誕生する。
via:jordan
同じように"ダンク"でも、豊富なカラーパレットが用意されていた。これは例えばホワイトとオレンジのカラーブロックが、シラキュース大学のバスケットボールチーム"オレンジ"を想起させるように、バスケットボール=白が標準とされていた当時、色を使うことで他ブランドとの差別化を図ろうとしていたことが読み解ける。
さて、ここからは「ピーター・ムーア」が手掛けたシューズのデザイン面を探っていこう。
"エアジョーダン1"が高い支持を受けたのは高い技術力と優れたデザインが高次元に融合していたからにほかならない。
エアと名がつく優秀なクッショニング性、足首を保護するハイカットのシルエット、また、レザー製で頑丈な作りという点からも支持を受けた。
これは"ダンク"でも同じだ。アッパーには耐久性に優れるレザー素材を使用し、ダメージを受けやすい部分やホールド性が求められる箇所に補強パーツが装着されている。
そんな「ピーター・ムーア」が手掛けた"エアジョーダン1"の誕生を追った映画『AIR/エア』が4月7日、劇場で公開
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
バスケットボールの枠組みを超え、ファッションやアートなどカルチャーに大きな影響を及ぼした"エアジョーダン"。
今もなお多くの人に語り継がれる伝説のシューズ、"エアジョーダン"が誕生するまでの感動の実話を描いた映画『AIR/エア』が4月7日、劇場で公開。
監督を務めたのは『アルゴ』でアカデミー賞®作品賞を受賞した「ベン・アフレック」。そして主演の「ソニー・ヴァッカロ」を、『インビクタス/負けざる者たち』『オデッセイ』『フォードvsフェラーリ』など数々の名作に出演し続ける「マット・デイモン」が演じている。
監督を務める「ベン・アフレック」はナイキCEOの「フィル・ナイト」の役も演じ、主演を演じた「マット・デイモン」は製作も担当。
また作中で、「ピーター・ムーア」がジャンプマンロゴにも関わったとされるメッセージが綴られている。
本作について、ベンは「マットと僕は『AIR/エア』の公開にわくわくしている。この映画は人生最高の経験だった!」と語っている。俳優・監督・製作の全方位で2人がタッグを組んだまさに特別な一本。映画史に名を刻む2人が起こす、新たな感動の奇跡が幕を開ける。
最後に「ソニー・ヴァッカロ」本人が、『AIR/エア』について"Footwear News"に語ったコメントを一部紹介する。
(「Alex Convery(アレックス・コンベリー)」は脚本を担当)
公開前から話題となっている本作。互いを友人として信頼していると語り、アカデミー賞®︎コンビで盟友である2人のタッグは、映画の物語と共に必見だ。
なお、Amazon Prime Video (プライムビデオ)で、5月12日(金) から独占配信開始が決定。 劇場で見逃した人は、是非チェックしてみてほしい。
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