人との繋がりを大事にし、ヴィンテージシーンを盛り上げたい
ファッションやエンタメ業界で活躍しているトレンドセッターに、ファッションにまつわる自身の歴史や仕事観、また今後の展望などを語ってもらいつつ、旬なセルフスタイルを披露する新連載「What's Your HYPE?」。今回のゲストは藤原裕さん。「ベルベルジン」で店頭に立ちつつ、ヴィンテージデニムアドバイザーとしての顔をもつデニムのプロ。デニムを通じ、多くの人が信頼を寄せる藤原さんにとってHYPEなものとは?
Photography: Tsukuru Asada(MILD)
Interview & text: Kei Osawa
人生初のデニムについて教えてください。
最初に穿いたのは小学生の頃。当時は父親が買ってくれた何てことのないデニムでした。初リーバイスは中学生になってから。親からもらった3,000円を握りしめて、ジーンズショップに買いに行きました。なぜかブラックデニムがほしかったんです。地元の高知県では「ジーンズファクトリー」というショップが人気で、オシャレな人が行くようなかっこいいお店で、憧れを抱いていました。そこで接客してくれたスタッフさんが勧めてくれたのが、リーバイスの501ブラック。当時6,000円でした。貯金していたお小遣いも一応持って行ったのでそれと合わせて買ったのですが、帰宅後、母親に思いっきり怒られました(笑)。
なぜブラックデニムが欲しかったのですか?
周りの友人の影響もありますが、父親がもともと服飾関係の仕事をしていたので、少なからず影響を受けていたのだと思います。ブルージーンズは小学生の時から穿いていたのですが、ブラックは未経験だったので欲しくなったんでしょうね。中1で501ブラックを購入して、そこからジーンズに興味が湧いて古いものを調べるようになりました。中2の頃には復刻版の701を1万5,000円で買いました。701はウィメンズモデルですが、当時はなぜかメンズで出ていたのです。
人生初のヴィンテージデニムはいつ買ったのですか
高校に入ってからですね。貯金がまだ2万円くらいしかないときに、4万5,000円の501ビッグEを買いました。ウェストはジャストサイズだったのですが、レングスがちょっと短かった分、少し安くしてくれました。ただお金が足りなかったので1ヶ月半くらい取り置きをしてもらって。
ジーンズ以外のヴィテージアイテムへの興味は湧かなかったのですか?
もちろん、スウェットやTシャツなど気になるものはたくさんありましたが、手が出せませんでした。部活をやっていてアルバイトもできなかったので、お金がなくて。ただ「Boon」や「asayan」、「GET ON」などファッション誌だけは買って、古着の知識を蓄えていました。
影響を受けた人はいましたか?
一学年上にいたヴィンテージ好きの先輩です。その方は古い単車に乗っていて、エンジニアブーツ履いていたのですが、自分も501”E”を買ったタイミングで、ブーツが欲しくなって、マイナーブランドでちょっと古いエンジニアのデッドストックを1万5000円で買いました。ちなみにレッドウイングだと3万円くらいしたのでちょっと手が出ませんでした。
高校卒業後に上京しますね。
そうですね。とりあえず東京に出るために、一般の会社に就職しました。働きながら古着屋めぐりをしたり、週末はフリーマーケットに行ったり、古着はあくまで趣味でした。初任給が12万円なのに、9万円のリーのジーンズを買ったりしていました。1ヶ月間カップラーメン生活なんてざらでした(笑)。
古着屋になるために最初に何をしましたか?
会社をやめました。おかげで4ヶ月間プータロー生活で(笑)。その間は、自分の私物をフリーマーケットで売ったり、あと当時は原宿のキャットストリート沿いに、平日でもフリマみたいに路上で売買している人たちがたくさんいたので、そこで服を売っていました。当時は墨田区に住んでいたのですが、平日は毎日キャットストリートに通っていました。
働きたいお店はあったんですか?
表参道にあった「サンタモニカ」さんで働きたいと思っていたので、一度面接に行きました。でもタイミングが悪くて採用にはなりませんでした。その後、先輩に紹介していただいたのが「ベルベルジン」でした。当時はまだ、竹下通りから一本裏通りに入ったところにオープンしたばかりで。そのときに現社長と副社長を紹介していただきました。もちろん、それですぐ働くというわけでなく、ちょくちょく遊びに行かせていただいたりしながら、その3〜4ヶ月後から実際に働かせてもらうことになりました。
実際に働いてどうでしたか?
接客が好きだったせいか、すごく楽しかったです。ただ社長と副社長が買い付けに行っている間、きちんと売り上げ出しておけって言われたことがすごく印象に残っています。その時は一週間で50万円売れと言われましたが、たしか自分が売上げたのが40万円くらいだった記憶があります。
古着屋で働き始めたことで、自身のデニムに関する考えなどに変化はありましたか?
ありました。特に18年前に「フェイクアルファ」が姉妹店になったときですね。同店にあった大量のデッドストックを全てチェックしていたのですが、そのときに澤田一誠店長から、デニムに関する知識や歴史を教わったことで、デニムに関する知識がより高まったことはもちろん、デッドストックというものの価値がいかに高いかを知ることができ、よりデニムへの愛着が湧きました。
数年前まで古着は、ファッションのジャンルとして国内では一定の人気を誇っていました。でも今はファッションに興味がなかった人まで巻き込み、世界的なムーブメントになっています。そんな現状に対し、どんな思いを抱いていますか?
率直にすごいなと思います。1995年を最初に、古着ブームはいままで何度も経験していますが、今回が過去最高だと感じています。しかも最近のブームは若い人たちが中心になっているということが大きいです。若い人たちの間で、高額なものや珍しいものが取引されていることは、10年前にはありませんでした。若いオーナーさんのお店がたくさんでき、若いお客さんが集まるっていう循環ができて。個人的には、若い人が古着の世界に参入してくることはすごくいいことだと思いますし、自分もできることがあれば協力して盛り上げていきたいです。
ご自身は、2015年に自著『THE 501 XX A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』を、さらに2020年に『LEVI’S VINTAGE DENIM JACKETS TYPE I/TYPE II/TYPE III』を出版されました。なぜ製作をしようと思ったのですか?
自分が「ベルベルジン」に入社して、実際にリーバイスのヴィンテージデニムを取り扱う中で、現物の作りと過去に勉強してきたことと事実が異なることが多かったんです。だからこのタイミングで、きちんとした教科書みたいなものを作りたいと思ったのが最初です。そして、まず作るなら501XXをまとめた書籍かなと。
その頃から、501XXと506XX Eを筆頭に、ヴィンテージウェアの価値があがったような気がします。
そうですね。特に501XXと506XX Eに関しては価格があがったと思います。どちらの本も製作をするにあたって、自分の親しくさせていただいているマニアの方やコレクターさんに、コレクションをお借りするために連絡を取らせてもらいました。そうやって連絡をとるうちに、コレクターのみなさんは、どのアイテムが掲載されるかが分かるわけです。掲載される個体は出版後、市場価格が上がる可能性が高いので、同じ個体を探して事前に購入するという動きがあったのかもしれません。本が発売する頃には市場に出ていませんから、ほしい人は高額を支払ってでも欲しいわけです。価格はどんどん上がりますよね。
「藤原裕がリーバイス501XXと506XXEの値段を上げた」という声が大きいです。
上げたつもりは全くないですよ(笑)。先ほど言ったように教科書を作りたいという思いと、ヴィンテージデニムや業界全体が盛り上がればいいなっていう。
1995年のブーム時と今とでは、ヴィンテージの扱われ方が違うとおっしゃっていましたが、最近は投資目的で買う人が現れるなど、購入目的も多様になってきています。その変化について思うことはありますか?
特にありません。というのも1995年当時から、デッドストックを中心に投資目的で買ってらっしゃる方もいました。ただその間、古着業界も冬の時代がありましたから、これ以上値段が下がるのを嫌って売る人も多かったですね。いまだに所有している人は、コレクションに相当の価値がついていると思います。特にデッドストックともなると貴重です。フェイクアルファとベルベルジンが合併した当時は、デッドストックは約4,000本ありましたが、今はもう数百本程度。それだけ買われてしまい、そのうちの何割かは着用されて、もはやデッドストックではなくなっている。そうなるともう、値段が上がるしかないんです。デッドストックが増えることはありませんから。
市場価格の上昇とSNSは関係があると思いますか?
かなりあると思います。これほどスピーディーに個人売買ができてしまうと、色んなところに色んな値段で広がっていきますし、買い物も誰もが手軽にできる。そうなると偽物やリサイズされたものを買ってしまう恐れもあるので、よくも悪くもといった感じではありますが。ただSNSが発達したことで、古着業界全体が盛り上がっているということは、すごくいいことだと思います。
フリマアプリでは、「ベルベルジン藤原裕氏着用ウェア」とか出品されていて、それがめちゃくちゃ高いです。ご覧になったことは?
書かれていることはたまに耳にしますが、極力見ないようにしています。おそらく(その商品自体)僕は着ていないですよ(笑)。僕が着る着ないに関係なく、SNSでヴィンテージの価格がめちゃくちゃなことになっていることには、びっくりしています。ただでさえ、アメリカの買い付け時の価格が上がっていますからね。いち店員として、なるべく価格を抑えられるように努力はしないといけないと思っています。
アメリカにヴィンテージはもう無いとよく聞きますが、実際はどうですか?
無くはない、という感じでしょうか…。最近は現地のヴィンテージディーラーさんの替わりが進んでいて、今は若いディーラーさんが増えているんです。これまでのディーラーさんとは全然ちがって、今まで注目されなかったヴィンテージアイテムが出てきています。
ロックや映画などのTシャツはまさにそう。10年前は2,800円だったものが、今は1万円くらい。またディズニーものや日本のアニメやキャラクターものも、アメリカの若い子たちが盛り上げて価値がついたと考えられます。今後も新たなヴィンテージアイテムが誕生することでしょうから、それはそれで楽しみです。
いろんなトレンドを見たり、実際に作っているわけですが、ネクストブレイクアイテムを教えてください。
それが分かれば、自分も今から買いまくってますよ(笑)。ただ個人的にはアメリカの定番古着、いわゆるトゥルーヴィンテージと呼ばれるものが好きなので、その中から何かブームになったら嬉しいです。最近はデニム、スウェットときているので、僕的に次はシャツだろうなって思っています。
いまのヴィンテージシーンに望むことはどんなことですか?
これは個人的なわがままですが、ヴィンテージアイテムが海外に流れて欲しくないです。そうは言っても、誰もが買えるものなので、止めることはできませんが。ヴィンテージは限りある資源なので、お店や個人など、それぞれが所有するアイテムを大事に扱い、着ていくしかありません。何よりヴィンテージは日本発祥のカルチャーですから、日本がシーンの中心でありたいという思いが強いです。やっぱり良いヴィンテージは日本に存在してほしい、昔購入したものも、ずっと大事に持っていてほしいなと思います。
最後の質問です。ご自身にとってHYPEなものとは?
「人と人を繋ぐ。デニムのリベットのように」
今の自分にとって一番の財産は、人です。自分はヴィンテージを通じて、人との繋がりが生まれて、いまがあると思っています。だから自分がきっかけになって自分の知り合い
同士が繋がって、新たな仕事が生まれたりすると、本当に嬉しいです。これからもヴィンテージデニムを介しながら人と繋がり、それを大事にし、色んな人を巻き込んで様々なことにチャレンジできたらと思っています。