Default Image

自分がかっこいいと感じるもので勝負したい(MC TYSON)

音楽もファッションも強い信念をもちつつ、いつか世界で活躍したい(Watson)

ファッションやエンタメ業界で活躍しているトレンドセッターが、ファッションにまつわる自身の歴史や仕事観、また今後の展望などを語り、旬なセルフスタイルを披露する連載「What's Your HYPE?」。今回のゲストはともに、ラッパーのMC TYSONさんとWatsonさん。WatsonさんにとってTYSONさんは雲の上の存在であるだけに、インタビュー中は大緊張。そんなWatsonさんの姿を見るにつけ、TYSONさんはさながら、弟に向けるような優しい眼差しが印象的だった。ともにポップアイコンとして注目を集める人気者なだけに、プライベートスタイルは注目の的。ジャパニーズヒップホップ界を牽引する二人に、ファッションの原風景からヒップホップへの思いに至るまで幅広く訊いた。

Photography & Movie: Tsukuru Asada
Interview & text: Kei Osawa

まずは、初めて会ったときのお互いの印象からお聞かせください。

MC TYSON : 以前から友達に「徳島のやばいラッパーがいる」って言われていて。ワト(Watson)が有名になる前ですが、僕らのクルーの中ではすでに名が知れていたので、ずっと気になっていたんです。大阪のクラブで実際に会って仲良くなりました。見てわかると思いますが、めちゃくちゃいいやつで。

Watson : TYSONさんのことは昔から存じ上げていましたし、僕の中ではずっとスーパースター。仲良くしていただいて本当に嬉しいです。初めてお会いしたときから変わらず、ずっと優しく接していただいています。ただ僕にとっては雲の上の存在なので、お会いすると緊張します(笑)。

では、お二人がファッションに興味を持ったきっかけは何でしたか?

MC TYSON : 海外のラッパーのファッションですね。中学生の頃にヒップホップにはまってから興味を持ちました。アメ村にいけばヒップホップで人気のブランドや、ストリート系の服があったので、その界隈で買いものをして、自然とそういうスタイルになっていきました。あと映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年公開)に、僕が大好きなラッパーのBowWow(バウワウ)が出演しているんですけど、劇中で彼が学ランを着て、頭にドゥラグを巻いていたんです。そのスタイルのカッコよさに衝撃を受けて、当時僕も学ランにドゥラグを巻きつつ、〈Timberland /ティンバーランド〉のブーツを合わせて登校していたくらい。

Watson : 僕は地元におしゃれな先輩がいて、その人からだいぶ影響を受けましたね。当時は〈Alexander Wang/アレキサンダーワン〉を買ったり。そこからちょっとストリートテイストに寄っていったり、途中ヒップホップにはまってラッパーの方から影響を受けました。僕も、中学の時に周囲の友達が〈Timberland /ティンバーランド〉のレースアップブーツを履いていたことから、自分も履きました。ただみんなは定番のイエローだったので、あえて黒を履いていました。

お二人はファッションの情報はどこから入手していますか?

MC TYSON : 基本はSNSですね。昔は『WOOFIN'(ウーフィン)』や『411(フォーダブワン)』などの雑誌を見たりしていました。あと流行に関係なく、仲間が作っている服を着ることが多いです。

Watson : 僕もインスタをチェックすることが多いです。最近は国外のラッパーをよく見ています。気に入った服があればそれをスクショして、グーグルの画像検索にかけてブランド名や取り扱いのショップを調べたりしています。

昔のファッションで、黒歴史みたいなものがあれば教えてください。

MC TYSON : ファッションとは違うかもしれませんが、学ランの内側には”裏ボタン”を付けられたじゃないですか。そこでおしゃれをしていました。5つのボタンを使って、上から「暴」「走」「天」「使」という並びで。ちなみに「暴」「走」と「天」「使」の間に花のイラストが書かれたボタンが入っていました(笑)。いま考えたらちょっとした黒歴史かもしれませんね(笑)

Watson : 裏ボタン、僕もやってました。僕は「I」「LOVE」「YOU」「♥」で、しかもチェーン付き(笑)。

MC TYSON : チェーン付き(笑)! あったなあ、懐かしい!

服を選ぶうえで重要視しているところはどんなところですか?

MC TYSON : サイズ感や着心地ですね。あと移動や遠征が多いので、そういう時に着ていて疲れない作りで、なおかつライブ映えするかっこいい服というのが理想です。ブランド的には〈CVTVLIST/カタリスト〉、〈adidas/アディダス〉、〈SUPPLIER/サプライヤー〉、〈THUG CLUB/サグクラブ〉とかが多いかな。

Watson : 僕が最初にチェックするのはシルエットや質感で、そのあとにデザイン。ただシーズンごとに変わることが多くて、いまはショートレングスが気分です。あとカラーはモノトーン系が多いです。

お二人には服作りをしている仲間がいらっしゃいますが、そういう服だと、袖を通すときの気持ちも他の服とは違うものですか?

MC TYSON : 違いますね。やっぱり素性も知っていますし、気持ち的にぐっとくるものがありますよね。

Watson : 僕の友達にも服を作っている仲間がいて、ブランドとしてまだちゃんとやれてはいませんが、彼が作った服をよく着ています。やっぱり何かいいですよね。同じような志をもっているので、いつか一緒にやりたいです。

よく行く地元のショップは?

MC TYSON : 大阪にある『FIVESTAR(ファイブスター)』というセレクトショップは、プライベート以外でも、ライブや撮影前に行ったりします。ストリート系のブランドが多くて好きです。

Watson : 徳島には〈SAINT Mxxxxxx/セントマイケル〉や〈Rick Owens/リック・オウエンス〉、〈Maison Margiela/メゾンマルジェラ〉などを扱っている『monde jacomo(モンドジャコモ)』というショップがあるのですが、そこによく行きます。

音楽に興味を持ったのはいつですか?

Watson : 僕は16〜17歳頃だったと思います。当時はBAD HOPを聴いていました。

MC TYSON : 僕はGユニット(G-Unit)とか、50(フィフティ)セントがオンタイムで、USを聴いてから日本のアーティストを聴き始めました。そんな中でも、かっこいいラッパーになりたいと思わせてくれたのは、AK-69でしたね。アーティストとしてのスタイルなど、今の自分を形成する中で影響を受けた人の一人です。

どんなところが特別なのですか?

MC TYSON : USのヒップホップを聴いていた当時中学生だったのですが、自分の中で”日本のヒップホップなんて、しょせんUSのコピー”っていう思いがあって。そんな時、たまたまAK-69とKalassy Nikoff(カラシニコフ=AK-69の別名義アーティスト)のアルバムを聴いた時、ギャングスタラップをやっている人たちがいるということを知り、びっくりして。それから、日本人ラッパーに対する考え方が180度変わりました。英語圏の人間ではないので、英語よりも日本語の歌詞で聴く方が体に染み込んで、余計好きになりました。

Watsonさんはいかがですか?

Watson : 僕は先ほど話したBAD HOPなど、たくさんいます。自分でマイクを持ったのも「自分でもできるんじゃないか」とか「ああいうふうになりたい」と思わせてくれたから。ただ当時は遊びでフリースタイルをやっていたくらいで、ラップは素人だったんですけど。

TYSONさんは、昔からアーティスト気質だったのですか?

MC TYSON : 当時僕が住んでいた団地の広場で、友達がフリースタイルをやっている中、僕は見ている側やったんですよ。楽しそうにやっている姿を見て、自分もやってみたいなって思って。ただ、最初はフリースタイルをするのが恥ずかしかったですね。

Watson : 僕もすごく恥ずかしかったです(笑)

MC TYSON : でも下手なりにやっているうちに、ある時に楽しさに気づいたんです。めちゃくちゃ楽しくて、朝まで夜通しでやっていました。僕にとっては、その日がラッパーになった日。お金がなくてもラジカセがなくてもマイクがなくても、音を流せばそこに声を乗せるという究極にシンプルな遊びというか。”楽しさ”に食らいましたね。

Watsonさんも最初は恥ずかしかったとおっしゃっていましたが。

Watson : そうですね。フリースタイルは緊張しますし、いまだに恥ずかしいです(笑)。

MC TYSON : 恥ずかしいっていうか(笑)、何やろなあれ。

実際、自分もマイクを持ってステージに立ちたいと思ってやってきて、夢を実現したっていつ実感しましたか?

Watson : 徐々にですよね。あとはTYSONさんから声をかけていただいたりしたことで、自信になりました。自分が昔、好んで聴いていたアーティストの方がかっこいいって言ってくれて、やってきたことは間違いなかったなって。

MC TYSON : 僕は、覚悟をしたタイミングがありました。4人目の子どもを授かったとき、当時は音楽をやりつつ、仲間と一緒に別の仕事で稼ぎがあってそれなりに幸せでした。でももしこれから先、自分の好きなことで、家族を養いつつ隣におる仲間まで救うことができたら、やばい(かっこいい)んちゃうかなって思ってしまったんです。それからは、音楽一本でやる覚悟を決めました。

団地でフリースタイルをしていた当時と今では、ヒップホップというものに対する向き合い方に変化はありますか?

MC TYSON : そうですね。これで食べさせてもらっているので、以前よりもプロ意識を持って取り組んでいるつもりです。

Watsonさんはいかがですか?

Watson : ラップに対する意識は変わりました。やっぱりたくさんの人が聴いてくれるようになって、曲作りに対する気持ちの入れ方も変わっていきました。

MC TYSON : ワトは、昔はどこにでもおる”少年”って感じでしたが、曲を聴いたらめちゃくちゃかっこよくて衝撃を受けて。その後、仲間から僕とワト、二人でのパフォーマンスを見たいと言われ、一緒に曲を作ることになりました。俺が呼んでから、ほかの人ともコラボをするようになったよね?こんなん言うたらまた色々言われるかも(笑)。

Watson : おかげさまで。TYSONさんと一緒にやらせてもらってから、コラボ案件が増えました(笑)。

Watsonさんにとって、MC TYSONというアーティストはどんな存在ですか?

Watson : 雲の上の人です。以前、ライヴに行かせていただいたのですが、スケール感がケタ違いに大きいことに驚きました。だから、一緒にパフォーマンスをさせていただけると聞いたときは、感動的に嬉しかったです。

お二人はそれぞれ大阪と徳島を拠点としていますが、地元で活動する強みはどこにありますか?

MC TYSON : 強みは、昔からの仲間がいることかな。僕の”ヒップホップ美学”的には、かっこいいラッパーって地元を連想させるんです。例えばスヌープ・ドッグならウエストコースト、ジェイ・Zならニューヨークが背景に見えたり。どこがレペゼンなのかということは、僕の中で絶対的に重要。そこは、これからもずっと大事にしたいなと思います。

Watson : 僕も仲間の存在は大きいですね。あと、田舎に住んでいるからこそ、曲を作る際に都会にカマすっていうことができるので、それは自分の中で強みになると思っています。そういう思いをリリックに書けるし、逆に何もないから曲つくりに集中できるっていう。

ミュージシャンとして大事にしていることはどんなことですか?

MC TYSON : 真実をスピットすることかな。嘘をつかずに本音をいう。僕がスピットする内容が衝撃的すぎて、たまに「あれほんまなん?」って言われりことがるんですけど、少なからずここまで来られているのは、真実を語っているからで。あくまで、自分がかっこいいと感じるもので勝負したいというか、自分に嘘をついてまで作った曲なんて絶対にいいもんじゃないし。もしそれで当たったとしても、美味しいご飯も食べられへんと思います。

職人みたいですね。

MC TYSON : そうですね、職人やと思います。

Watson : 僕も本音で語るとか、そういう部分ですね。そこからどうオリジナリティを入れるかを模索しています。

MC TYSON : あ、そうそう。初めてワトの曲を聴いたときに、新しいといいますか、何か(業界を)変えそうな感じの雰囲気はありましたね。面白いし斬新やし、当時流行っていたビートの流れとかもありましたが、ラップにもカチッとはまって、人気が出るべくして出たっていう気がします。

最後の質問です。お二人にとってHYPEなものとは?

Watson : 僕は「かんじょうをうまくひょうげんできる」です。曲作りの時など、この瞬間はこの上なくHYPEですね。こういう瞬間に多く触れて、いつか世界で活躍するラッパーになりたいです。

MC TYSON : 僕は「LOVE」。結局はこれじゃないですかね。自己犠牲の考えや、家族や仲間など大事な人たちに対する思い、もちろん自分の曲も「LOVE」で溢れているから、全部ここに入っています。

Watson : 間違いないですね。

MC TYSON

えむしーたいそん 1991年生まれ。大阪府住之江区出身。2016年に1stアルバム『THE MESSAGE』をリリース。その後、少しずつ注目を集め、2020年にリリースしたフッド・アンセム『I’m “T”』のMVは、YouTubeでの再生回数1200万回を超える大ヒット。2025年1月30日には自身初となる日本武道館単独ライブ『KING KONG in 日本武道館』を開催。

Instagram:@mctyson_official

Watson

わとそん 2000年生まれ。徳島県小松島市.出身。2021年5月に1st EP『Pose 1』をリリース。2021年にリリースした、代表曲『18k』を収録した2nd EP『Thin gold chain』がヒットし、一躍注目を集める。

Instagram:@imwatson_soul