フリマアプリや二次流通サイトで「並行輸入品」と記載された商品を購入し、不安になった経験を持つ人も少なくないだろう。
本稿では、「並行輸入品」の正しい知識と、それを悪用する偽物業者の実態と手口、そして安全に取引するための方法について詳説する。
そもそも「並行輸入品」とは? 偽物との違い
「並行輸入品」と聞くと、「偽物ではないか?」「非正規品?」といった不安を感じる人も多い。しかし、その認識は正しくない。「並行輸入品=偽物」ではないのだ。
まず、「正規輸入品」と「並行輸入品」の違いを正しく理解する必要がある。
「正規輸入品」と「並行輸入品」の流通ルート
【正規輸入品とは】
海外のブランド(メーカー)と正式に「総代理店契約契約」を結んだ日本の法人(日本支社や正規代理店)が、ブランドから直接商品を仕入れて輸入・販売する商品だ。
- ・ブランドが定めた日本の定価で販売される。
- ・日本語の品質表示タグや説明書が付属する。
- ・国内の正規店で保証やアフターサービスが受けられることがある。
【並行輸入品とは】
正規代理店以外の第三者(個人や並行輸入業者)が、海外の直営店、正規販売店、免税店などで一般に流通している商品(=本物)を買い付け、日本に輸入して販売する商品だ。
- ・正規代理店を通さないため、販売者が自由に価格設定でき、正規輸入品よりも安くなることが多い。
- ・日本語の品質表示タグや説明書が付属していない。
- ・正規代理店の保証やアフターサービスが受けられないケースが多い。
- ・日本国内では未発売のモデルや、完売したアイテムが手に入ることがある。
【並行輸入品の例】
こちらはSupreme x The North Face S/S Top "White"の国内正規品/並行輸入品の比較画像だ。国内と海外で代理店が違うため、品質表示タグや紙タグの表示に違いがあるが、商品自体のデザインやディテールは変わらない。
【並行輸入品でしか手に入らない商品例】
![]() The North Face White Label Novelty Nuptse Down Jacket "Black"(韓国企画) |
![]() The North Face 1996 Retro Nuptse Jacket(USA企画) |
国内で流通していない海外限定商品などは基本的に並行輸入でしか購入することができない。例えば、The North Faceは国内だと正規代理店で展開する日本企画のものしか販売されていないが、並行輸入を使用すれば米ザ・ノース・フェイス社が展開するUSA企画や、韓国限定展開のホワイトレーベルの商品なども購入することができる。
<参考:公的機関の見解>ジェトロ(日本貿易振興機構)なども、並行輸入は「真正商品の輸入」であり、正規代理店ルートと異なるだけで、法律上も認められている輸入形態であると説明している。
ご覧の通り、どちらも海外の正規店で流通している「本物(正規品)」であり、輸入ルートが違うに過ぎない。むしろ、国内で手に入らないアイテムに出会える「賢い選択肢」の一つとも言える。
ではなぜ、フリマアプリで「並行輸入品」をめぐるトラブルが多発しているのか。
「並行輸入品」と偽る、偽物業者の"カモフラージュ"に注意
問題なのは、「並行輸入品」そのものではなく、「並行輸入品」「海外正規品」と偽って偽物を販売する悪質な業者が急増しているという事実だ。偽物業者は、「並行輸入品は海外仕様なので、国内正規品とは異なる」というイメージを悪用し、フリマアプリなどの個人間取引で「海外アウトレット品のため」「海外限定品」「並行輸入品にご理解のある方のみ」など、もっともらしい理由をつけて、正規品とのデザインの違いや、価格の安さを正当化させようとしている。
この現状について、数多くの真贋鑑定を行う専門家、スニダン鑑定研究所 所長の中村渉氏に話を伺った。
中村 渉 / スニダン鑑定研究所 所長
二次流通企業でリユース/並行輸入のバイヤー業務を経験後、日本流通自主管理協会(AACD)の「協会基準判定士」の資格を取得し、主にアパレルとスニーカーの真贋鑑定に従事。2022年7月に株式会社SODAに入社し、鑑定部門のリーダーとして真贋鑑定の体制を構築。2025年7月より、スニダン鑑定研究所の所長に就任し、真贋鑑定と偽造品の研究を担う。
最近の偽造品販売業者の手口は「単に似せる」レベルから、「消費者の信頼やシステムの隙を突く」レベルへと巧妙化・悪質化しています。
最も一般的な手口の一つが、「並行輸入品」というキーワードの悪用です。 偽造品販売業者は、正規品と仕様が異なる(例:タグが違う、縫製が甘い、NFCが反応しない)点を購入者から指摘されても、「これは海外流通の並行輸入品だから国内正規品とは仕様が異なる」と説明します。 消費者側も「並行輸入品はそういうものか」と納得してしまい、偽造品の疑いを持ちにくくなります。実際には並行輸入品であることを隠れ蓑にした、完全な偽造品であるケースが後を絶ちません。フリマサイトなどでこのキーワードと不自然な安さが組み合わさった場合、高確率で偽造品に当たります。
また、最近ではフリマアプリなどの個人間取引以外での販路も危険になっているという。
偽造品を販売する販路も多岐にわたっています。
フリマサイトでは依然として偽造品の出品は増え続けていますが、従来のECサイト型では偽造品業者の販売方法が、SNS、特にTikTokやInstagramの「誘導型広告」に移行して来ています。 SNS広告では直接販売せず、「限定セール」や「工場直送」を謳い、興味を持ったユーザーをLINEやWhatsApp、WeChatなどのクローズドなチャットへ誘導する方式ですね。 クローズドな環境では運営による監視の目が届かないので、業者はそこで銀行振込などの直接取引を持ちかけます。 そこで代金を支払うと、偽造品が送られてくるか、何も送られてこずにブロックされて終了となり、追跡が極めて困難になります。 日本であまり広がっていませんが、海外ではライブコマース(ライブ配信)を用いた偽造品の販売も増加しています。
弊社が設立したスニダン鑑定研究所の責務は、製品の真贋を見抜くだけでなく、こうした悪質な「騙しの手口」そのものを社会に啓発していくことにもあると考えています。
個人での真贋は、もはや不可能に近い?
ここまで、「並行輸入品」の正しい知識と、それを隠れ蓑にする偽物業者の巧妙な手口を解説してきた。
結論として、個人がフリマアプリの写真や説明文だけで「並行輸入品」として出品されている商品が本物か偽物かを見抜くのは、きわめて困難と言わざるを得ない。
では、どうすれば偽物のリスクを回避し、安全に取引できるのか?後編では、「並行輸入品」の取引も安心して行うための具体的な解決策と、スニーカーダンクが提供する「確かな保証」について詳説する。

