ナイジェル・ケーボンに聞く、6ポケットカーゴパンツの元祖"M-51"の魅力とは?|コラムについて
ここ2〜3年の間に、街中で見かける機会が増えた「カーゴパンツ」。そのルーツを辿ると行き着くのがアメリカ軍の「M-51パンツ」だ。定着したオーバーサイズの流れともリンクするだけに、その人気は高まる一方と言っていい。では、他にもさまざまなカーゴパンツが存在する中で、なぜM-51パンツは特別な存在なのだろうか?
その魅力に迫るべく訪れたのは、中目黒にある「Nigel Cabourn THE ARMY GYM TOKYO FLAGSHIP STORE(ナイジェル・ケーボン アーミー・ジム フラッグシップストア)」。ヴィンテージミリタリーから着想を得た「ナイジェル・ケーボン」のフルラインナップが揃う同店で話を聞いた。M-51パンツを愛用するスタッフが語る、その魅力とは?また、そんなM-51をモチーフにした同ブランドの"アーミーカーゴパンツ"とは?
お話を伺った人

鎌田悠三さん
「ナイジェル・ケーボン アーミー・ジム フラッグシップストア」のマネージャー。さまざまな年代のヴィンテージミリタリーのウェアにも精通している。休日はキャンプに出かけるなどアクティブに過ごすことが多いそう
史上初の6ポケットパンツ"M-51"。使い勝手がいいカーゴポケットの秘密
「M-51パンツは古着の金字塔です。そもそも僕が古着の世界に足を踏み入れたのは、M-51があったからと言っても過言ではありません。僕にとっては、ミリタリーやワークといったカテゴリーの服を好きになったきっかけのパンツでもありますね」
そう話すのは「ナイジェル・ケーボン アーミー・ジム フラッグシップストア」のマネージャーを務める、鎌田悠三さん。今となっては希少になりつつあるオリジナルのM-51を、自身も3本所有しているという。
「社内にはもっと上がいて、うちの事業部長は20本ほど持っていると言っていました(笑)。サイズ違いを気分によって穿き分けているようです。僕もサイズが大きい一本はカットオフして、ショートパンツにしたりして楽しんでいます」

ミリタリー由来のアイテムを数多く揃える同ブランドの関係者も魅了する、M-51パンツ。その正式名称は"トラウザーズ シェル フィールド M-1951"だ。その名のとおり、1951年に野戦用のオーバーパンツとしてアメリカ陸軍に採用。寒さとの戦いでもあった朝鮮戦争での使用を想定し、内側に着脱式のライナーを装着できる。後継種である"M-65"がベトナム戦争時に採用されるまで、十数年にわたり生産されたモデルになる。
「前身モデルの"M-43"はサイドに大きなポケットが2つ付くのみです。カーゴパンツ自体は以前から存在していましたが、計6つのポケットが付くデザインとしてはM-51が初めて。僕が手に入れた7〜8年前は1万円前後で売られていましたが、今ではデッドストックなら4万円以上の値が付くお店も見かけますね。最近はファッション系のユーチューバーが紹介する影響もあって、その価値は年々高騰しています」

via:nigelcabourn
M-51パンツの素材はコットン100%のバックサテン。前後にある計6つのポケットはすべてフラップ付き。ウエストにはベルトループ、サスペンダー用ボタン、サイズ調整のためのアジャスターが付属する。フロントはジップ仕様で、裾はドローコードで絞っての着用が可能

ちなみにアラスカなどの極寒の地域では、このM-51パンツの上にライナーとオーバーパンツをさらに重ねるレイヤードも存在する。最大で計4本のパンツ(ライナー2本とオーバーパンツ2本)を重ねた際の最上部に着用する"トラウザーズ シェル アークティック M-1951"は今回のパンツとはまた別物だ。
「ライナーについては亜熱帯地方なら外すし、寒冷地帯なら付けるということですね。あくまで各々の兵士が気候に合わせて判断していたはず。個人的にはM-51パンツにライナーを付けて穿くことはないです。最近はライナー自体もあまり見かけなくなったので、玉数も少なくなっていると思います」

M-51といえば、やはり目が行くのは両サイドに付く大ぶりのカーゴポケット。そもそもミリタリーの世界において、カーゴポケットを最初に必要としたのはアメリカ軍の空挺部隊だった。パラシュートを使って降下する彼らはバックパックを背負うことができないため、パンツに装備品を収納する必要があった。そんなカーゴポケットを受け継いだM-51パンツは、現代の生活シーンでも活躍してくれる。
「カバンを持ち歩くのがあまり好きではない僕にとって、物をたくさん入れられるカーゴポケットは頼りになるディテールです。財布・ケータイ・鍵・煙草・イヤフォンが普段の必需品なのですが、全然手ぶらで出かけられますね。キャンプなどアウトドアのシーンでも重宝しています」
「個人的にはしっかり物を入れてカーゴポケットの膨らみを強調させるのが好きなんです。せっかく付いている機能なんだから、しっかり活用するほうがかっこいいと思うんですよね。デニムのポケットに物を入れて、自分なりのアタリを出すのがいいと思う感覚と似ているかもしれません」


そのポケットのすべてにフラップが付くのもM-51の特徴だろう。内容物が落下しないためのフラップは現代のライフスタイルにおいてはオーバースペックなギミックにも見える。鎌田さんはどう捉えているのだろうか。
「確かにポケット内部へのアクセスだけを考えると、フラップは少し煩わしい面もあります(笑)。ただ独特の存在感があるディテールなので、丈の短いトップスを合わせた時やタックインした時にさりげなく目を引くポイントでもあるのかなと。僕はM-51のかっこよさを形作る上で欠かせないディテールのひとつだと思っています」

後継モデルのM-65との違いは"生地"。穿き込めば分かるM-51の魅力とは?
そんなM-51パンツのデザインを踏襲して生まれたのが、後継モデルのM-65だ。基本的なデザインはほぼ共通しているため、パッと見ただけで両者の違いを見分けることは難しい。そんな中、あるひとつのポイントが決定的に違うと鎌田さんは教えてくれた。その大きな違いは生地だ。
「穿いたり洗ったりを繰り返した時の味わいとしては、コットン100%のM-51のほうが断然いいというのが自分の実感です。ナイロン混のM-65を試したこともありますが、個人的にはあまりハマりませんでした。どちらか一本だけを選べと言われたら、僕は断然M-51派ですね」

時代的な背景として、M-65が生まれた1960年代はナイロン素材が世に普及し始めた年代でもある。「THE NORTH FACE(ザ ノースフェイス)」や、「Patagonia(パタゴニア)」の前身となる「CHOUINARD EQUIPMENT(シュイナード・イクイップメント)」などのアウトドアブランドが相次いで創業したのもこの頃だ。
余談になるが、1968年に「SIERRA DESIGNS(シエラデザインズ)」がリリースしたマウンテンパーカーも、コットンにナイロンを混紡した「60/40クロス(ロクヨンクロス)」を採用して人気を博した。コットンとナイロンの混紡生地はそれぞれが強度や撥水性・透湿性を補い合う、当時のハイテク素材だったことがうかがえる。
「寒冷地の朝鮮から熱帯のベトナムに戦場が変わったため、ゴワゴワする地厚なコットンのM-51より、ナイロン混のサラッとした生地のM-65のほうが合理的だったはずです。M-65はナイロン特有の艶っぽい風合いがあって、それはそれでいいのですが、M-51は穿き込むと生地が毛羽立って少し起毛感ある表情になるのがかっこいいんです」


M-51パンツの着こなしのコツは? Aラインの"ロング丈"が好相性
そんなM-51パンツを実際に穿きこなす際のヒントも聞いていきたい。M-51に限らないが、パンツの印象はサイズ感によっても変わる。鎌田さんは普段どんなサイズを選んで穿いているのだろうか。
「よく穿いているサイズは"MEDIUM-SHORT(ミディアムショート)"です。丈をロールアップするのもいいのですが、僕は裾がストンと落ちる感じが好み。なので、レングスはショートがちょうどいいですね。ショートレングスのM-51も最近あまり見かけなくなってきました」

M-51パンツは総じてヘビーな風合いのトップスとの相性がいいが、アウター類はどう選べばいいだろうか。
「M-51はナイジェル・ケーボンというブランドにとっての"制服"のような意味合いがあるパンツです。これの上にあえてツイードジャケットを羽織る組み合わせは、僕らの代名詞的なコーディネートだったりします。あとはロング丈のコートなどを合わせてもいいと思いますよ」

一般的にボリューム感のあるパンツは短丈のブルゾンとの相性がいいとされるが、ロング丈のアウターを合わせる選択肢もあるようだ。あえて上下でオリーブ同士のアイテムを合わせたワントーンのカラーリングも成立している。
「ロング丈のアウターを合わせる時のポイントとしては、少し上下の色味に差を付けたいですね。上下で全く同じ色味を選んでしまうと、いかにもミリタリーという感じのコスプレっぽさが出てしまいます。シルエットはピッタリしたものより、裾に向かって広がるAラインの一着のほうが合わせやすいかなと。M-51の太さに負けないためには、このくらいガバっとしたアウターを合わせるほうが潔いと思います」
「オリーブ×オリーブはハードルが高いようであれば、うちの定番のオフィサーシャツやブルゾンを提案したいですね。特に人気があるのは素材を切り替えたデニムのシャツジャケット。これとM-51は間違いなく合います。ネイビー×オリーブであれば、比較的多くの人が取り入れやすいのではないでしょうか」

取材当日はオールスターのハイカットを合わせていた鎌田さんだが、他にはどんなシューズを合わせるイメージがあるのかも聞いてみた。
「個人的にコンバースはハイカットのほうが好きですが、それ以外ならローカットのシューズを合わせるほうがいいかなと思います。レザーなら短靴やローファーを合わせるのがおすすめです。ハイテク系ならサロモンなどもいいですね。動くと少しソックスが見えるけど、パンツはしっかり太いというバランスがかっこいいかなと。とはいえ、正直いろんなパターンが成立すると思います(笑)。うちのスタッフだと、ロールアップしてハイカットのブーツを合わせている者もいますよ」
アメリカとイギリスのいいとこ取り。ナイジェル・ケーボンの"アーミーカーゴ"という選択肢
ここまではオリジナルのM-51パンツの魅力を紹介してきたが、残念ながら当時のオリジナルは年々入手しにくくなっているのも事実だ。M-51パンツをモチーフにデザインされた現代の一本にも目を向けてみるべきだろう。
その筆頭として存在感を示しているのが、ヴィンテージのミリタリーを熟知した「ナイジェル・ケーボン」が手がける"アーミーカーゴパンツ"だ。M-51をベースにしつつ、いくつかの要素を足し引きしながら日本人でも穿きやすい一本に仕上げているという。
「うちの"アーミーカーゴパンツ"はオリジナルのM-51に比べて生地をやや薄くしているので、高温多湿な日本でも通年で穿きやすい一本です。丈感も日本人の体型に合わせているので、大体の方が裾上げせずにそのまま穿けると思います。シルエットはオリジナルより少し細くしていますが、M-51特有のボリューム感はしっかりあるので、より現代の服にも馴染みやすいバランスになったかなと」


「ヴィンテージのイギリス軍のコンバットパンツは、アメリカ軍にはない品の良さが魅力です。その特徴的なディテールであるポケットのみを移植したイメージ。この位置にこの形状のポケットを付けるのは他のパンツでは見かけないディテールです。このポケットを付けた代わりに、フロントポケットのフラップは省略してバランスを取っています。アメリカとイギリスそれぞれのミリタリーの背景を持つ、ナイジェル・ケーボンらしいカーゴパンツだと思いますね」

カーゴパンツの元祖であるM-51の粗野な魅力を保ったまま、イギリス由来の味付けをプラスした"アーミーカーゴパンツ"。生地にも並々ならぬこだわりを詰め込んでいるだけあって、M-51と同じように穿き込む過程を楽しめる一本と言えそうだ。
「個人的には古着と新品をミックスするスタイルが好きなので、"アーミーカーゴパンツ"を穿く際のトップスは古着を選んでコントラストを楽しむことが多いです。逆にオリジナルのM-51を穿く時は、新品のアイテムを合わせるようにしてバランスを取っています。もちろんナイジェル・ケーボンのアイテムを合わせることも多いですよ(笑)」
まとめ
どんなジャンルであれ、名作に手を加えるのは難しい。6ポケットのカーゴパンツの元祖であるM-51パンツであればなおさらだ。そんなM-51へのリスペクトを持ちながら、新たな魅力をまとった「ナイジェル・ケーボン」の"アーミーカーゴパンツ"はとてもユニークな一本に見える。6ポケットだけでなく、"7ポケット"のほうもカーゴパンツ選びの候補にぜひ加えてみてほしい。

住所:東京都目黒区青葉台1-21-4
TEL:03-3770-2186
営業時間:11:00〜19:00
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