ナイキ ダンクへのvacancyさんの投稿

2023/09/04

夜の連続スニーカー小説　特別編最終回

何もかもが夢であってほしかった。
しかし、現実は残酷なまでにうまくいかないことの連続。
だからこそ、現実なのである。

もはや、目的を見失いつつあった。
今日の目標は私の中のブリュレがブリュレしそうになるのを抑えることだったのか。
自分のプライドを守るだけのゴルフだったのか。

…そうじゃない。
私は、自分の靴を守るために自分と戦っているのだ。
かつての堀米ダンクのように、目の前で大切なものを、もう失うわけにはいかない。
あと裸足で帰りたくない。

きっと君を…連れて帰るから…！！

結果は「117」
自己ベストより、4打もプラスだった。
やれることはやった。

さようなら、私の青春ーー

現実を受け入れられない私は、変わるはずのないかつてのスコアを見返していた。

「…あれ？」

なんという奇跡、なんという強運。
きっと日頃の行いのおかげだろう。

まさかの自己ベストを勘違いしていた。
何度確認しても、私の自己ベストは「118」だった。
つまり、これまで仲間に大ボラ吹いていたブリュレ野郎だったのだ。

何だろう、このあんまり嬉しくない感じ…。

とにかく、結果は結果。
不本意ながらも、妻に勝利の報告をする。

「自己ベスト越えました」

「よかったね」

なんとまあ淡白なやりとり。
だが、これが当然の反応なのだ。
いったいさっきまでの熱量はどこに行ったのだろうか。
急に冷静になった自分がいた。

なぜなら、堀米ダンクは相変わらず押し入れの中、クロットダンクは現状維持。
何も変わらない現実。
これまでの一連の出来事は、いったい誰の、何のためのものだったのだろうか…。

生い茂る自然の中で、呆然と佇む私。
リーリーと響くスズムシの声が、静かに秋の始まりを知らせるのだったーー

夜の連続スニーカー小説
「晩夏の潮時」「修羅ゴルフ」

完